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東京高等裁判所 平成10年(行コ)166号 判決 1999年5月27日

神奈川県小田原市永塚二八三番地

控訴人(原告)

三原征紀

右訴訟代理人弁護士

岡村共栄

神奈川県小田原市荻窪四四〇番地

被控訴人(被告)

小田原税務署長 相京育三

右指定代理人

中垣内健治

下岡守彦

佐々木喜一

佐藤謙一

古瀬英則

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  控訴人の平成二年分以降の所得税の青色申告承認について被控訴人が平成四年三月六日付けでした取消処分を取り消す。

三  控訴人の平成二年分所得税について被控訴人が平成四年三月六日付けでした更正処分のうち、総所得金額一五四万七七三九円・納付すべき金額零円を超える部分及び同日付け過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄第一「事案の概要」記載のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決三頁五行目の「更正処分をした」を「更正処分をするとともに、過少申告加算税の賦課決定処分をした」と、六行目の「青色申告承認取消処分及び更正処分」を「青色申告承認取消処分、更正処分のうち確定申告額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分」とそれぞれ改める。

二  同三頁七行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「原審裁判所は、青色申告承認の取消事由が存在するから青色申告承認取消処分は適法であり、推計課税の結果によれば更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分も適法であると認定し、控訴人の請求をいずれも棄却したことから、これを不服とする控訴人が控訴したものである。」

第三前提となる事実

当事者間に争いがない前提となる事実は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄第三「前提となる事実」記載のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決五頁一行目の「(本件青色承認取消処分)」を「(以下「本件青色承認取消処分」という。)」と改める。

二  同五頁二行目の「被告は、」の次に「平成四年三月六日付けで」を、三行目の「更正処分」の次に「(以下「本件更正処分」という。)」をそれぞれ加える。

三  同五頁四行目の「(本件更正等処分)」を「(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と本件賦課決定処分を併せて「本件更正等処分」という。)」と改める。

第四当事者双方の主張及び争点

当事者双方の主張及び争点は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄第四「当事者双方の主張及び争点」記載のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決一〇頁一〇行目の「本件係争年分」を「平成二年分(以下、「本件係争年分」ともいう。)」と改める。

二  同一二頁一一行目の「本件税務調査」を「本件調査」と改める。

三  同一三頁一行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(四) また、被控訴人は、控訴人に対して本件各年分の調査をしておきながら、本件青色承認取消処分は平成二年分以降のみを対象としたが、被控訴人係官に対する控訴人の対応について、各年度ごとに異なる対応をしているのではないから、各年度で取扱いが異なることは通常はあり得ず、昭和六三年分及び平成元年分の青色承認を取り消さなかった唯一の理由は、右二年分について青色承認取消処分をすれば税金を還付しなければならなくなるからであって、右二年分について青色申告を承認し、平成二年分以降のみ青色申告承認を取り消したのは、被控訴人において恣意的に控訴人に不利益をもたらすために行ったものであり、かかる恣意的処分は租税法律主義に反し違法である。」

四  同一三頁三行目の冒頭に「(一)」を、四行目の冒頭に「(二)」をそれぞれ加え、五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(三) また、右1のとおり、被控訴人は、控訴人に不利益をもたらすために、平成二年分以降のみの青色申告承認を取り消した上で、平成二年分のみについて本件更正等処分を行ったたものであり、本件更正等処分も恣意的処分として違法である。」

五  同一三頁七行目の冒頭に「1」を加え、七行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「2 本件青色承認取消処分の恣意性

3 本件更正等処分の適否」

第五当裁判所の判断

一  当裁判所の判断は、次の二のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」欄第五「争点に関する当裁判所の判断」一ないし四(原判決一三頁八行目から四九頁末行まで)記載のとおりであるからこれを引用する。

二  原判決の付加、訂正

1  原判決一四頁一一行目の「四八頁」の次に「、乙四の二頁」を加える。

2  同一六頁末行の「原告は」から一七頁七行目の「また、」までを次のとおり改める。

「控訴人は、「妻巻子が久保係官に見せた書類は、仕入先別買掛一覧表三枚、得意先別売上表三枚、経費帳及び預金通帳であった。仕入先別買掛一覧表及び得意先別売上表はB四サイズではなく、A三サイズのものであり、巻子が作成したいわゆる帳簿作成のための原資料である。巻子は、自分の作成した資料であるからこれを見せることはやむを得ないと判断しこれを提示したのである。久保係官は、仕入先別買掛一覧表及び得意先別売上表を見ながら、仕入先、売上先のメモをとり、その住所と電話番号を巻子から聞き取り、これを克明にメモしたのである。この時以外にほとんどの仕入先を把握する機会はなかったのであるから、仕入先のほとんどをメモしていなければ本件のごとき更正処分は不可能である。」と主張する(平成一〇年一一月六日付け控訴の理由書二、三頁)。

しかし、甲四〇の一及び二の売上表が久保証人が控訴人の妻から見せられたと証言するB四サイズの売上表と同一のものと認めるに足りる証拠はなく、甲四〇の一及び二により、B四サイズの売上表一枚を見せられたとする久保証人の証言が採用できないことの根拠とすることはできない。また、控訴人は、その平成七年六月一二日付け準備書面(二)においては、「これらの提示された帳簿書類によって税務職員は仕入先及び販売先のすべての住所電話番号をメモした」と主張していたものであるから、右主張は、この主張を改めるものであるところ、久保係官が仕入先及び売上先の住所と電話番号を巻子から聞き取ってこれをメモしたものと認めるに足りる証拠はない。そして、」

3  同一八頁一行目の「である。」の次に「控訴人は、この時に仕入先のほとんどをメモしていなければ本件のごとき更正処分は不可能であると主張するが、そのように解すべき根拠は存しない。」を加える。

4  同一九頁二行目の「、甲三九の八・1」を削除する。

5  同一九頁五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「以上の認定に対し、控訴人は、「久保係官は、控訴人に対する調査の理由を貸倒金の処理と棚卸しについてであると述べた。それで控訴人は控訴人の業態を説明し、林場に置かれている材木を検査するように求めたところ、久保係官は、材木のことは分からないと言ったので、材木店に税務調査に来ながら、材木のことが分からないのでは調査にならないのではないかと言って、材木のことが分かる係官を同行するように求めたところ、久保係官は、林場を検査することなく引き上げたのである。当日の検査で在庫の調査ができなかったのは、控訴人の非協力が原因ではなく、久保係官が材木について知識がなく、検査できなかったからである。」と主張する(同理由書四、五頁)。しかし、前掲証拠に照らし、右主張は採用することができない。」

6  同二二頁八行目の「証人吉田調書」を「吉田証人調書」と改める。

7  同二三頁三行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(3) 以上の認定に対し、控訴人は、「控訴人は、テーブルの上に帳簿書類一切を乗せていつでもこれを係官が閲覧できるようにして、再三にわたり帳簿の閲覧検査を要請した。また、当日貸倒金の処理については控訴人が間違っていたことを告げ、税務係官の指示に従うことを申し出ていた。久保係官としては守秘義務を全うするために吉田局員の退席を要求するのみで質問検査に入ろうとしなかったが、税務調査の理由となった棚卸し在庫の問題についても林場を検査するなどして守秘義務を全うしながらも検査ができたはずである。そのような努力をした形跡は全くない。久保係官において調査を行う意思があれば、十分にその目的を達成しうる状況にあった。」と主張する(同理由書五、六頁)。しかし、本件青色承認取消処分及びこれを前提とする本件更正等処分の関係では、帳簿備付け等の義務違反の有無が問題となるところ、その関係での調査は専ら備付け帳簿の閲覧検査ということになる。したがって、久保係官において調査を行う意思があれば十分にその目的を達成しうる状況にあったとの控訴人主張は、第三者の吉田局員が立ち会っていても備付け帳簿の閲覧検査が可能であったといえる場合でなければならないことになる。しかし、その主張に理由がないことは、後に詳述するとおりである。」

8  同二四頁四行目の「乙五の三頁」を「乙五の一ないし三頁」と改める。

9  同二五頁一行目の「証人加藤調書」を「加藤証人調書」と、二行目の「証人吉田調書」を「吉田証人調書」とそれぞれ改める。

10  同二五頁三行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 この点につき、控訴人は、「控訴人としては、平成三年一一月一九日当日は材木に詳しい係官に交代したと思いこんでいたので、久保係官から加藤係官に交代したことを特に指摘しなかったのである。また、吉田局員にしても、加藤係官が民商担当であるということは以前から知っていたので、税務署も対応を変えたのかと思った程度でことさら問題にしなかったのである。」と主張する(同理由書七頁)。しかし、証人吉田の証言及び甲三一によれば、吉田局員は、加藤係官の所属する個人課税第五部門は民商の対策係であり、民商会員に対する組織的な攻撃を行うためのものであると認識していたことが認められるから、税務署も対応を変えたのかと思った程度でことさら問題にしなかったとの控訴人主張は不自然といわざるを得ない。」

11  同二六頁五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 この点につき、控訴人は、「藤井局員が同席していなかったのが真実であり、この点について加藤係官の証言は真実に反し、同人の証言の信用性を損なうものである。」と主張する(同理由書七、八頁)。しかし、藤井局員が同席していたか否かの決定的証拠がなく、この点についての証人吉田と証人加藤の証言が対立している以上、藤井局員が同席していなかったのが真実であることを前提として、証人加藤の証言の信用性を非難することは理由がない。」

12  同二九頁六行目の「供述する」を「供述し、証人吉田もこれに沿う証言をする」と、七行目の「証人調書五六・五七頁」を「証人調書四八・五六・五七頁、甲三九の八4」とそれぞれ改める。

13  同三〇頁二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(ハ) 以上の認定につき、控訴人は、「そもそも控訴人は加藤係官が帳簿の閲覧検査をしたなどと主張しているのではなく、控訴人が帳簿等を閲覧してもらうように要請しながら、それを広げて見せたけれども、加藤係官は見ようとはしなかったと主張しているのであり、加藤係官は帳簿の閲覧をしようとすれば、十分にそれをなし得たのである。また、控訴人は忙しいので早く調査を終わらせてほしいとは述べておらず、仕事を休んで調査に応じているから何としても調査をしてほしいと要請したのであって、なんら急がせるような発言はしていない。」と主張する(同理由書九、一〇頁)。しかし、加藤係官が帳簿の閲覧をしようとすれば十分にそれをなし得たとの控訴人の主張は、第三者の吉田局員が立ち会っていても備付け帳簿の閲覧検査が可能であったことを前提とする主張ということになるが、その主張に理由がないことは、後に詳述するとおりである。また、前掲証拠によれば、控訴人は忙しいので早く調査を終わらせてほしいと述べたものと認めることができる。」

14  同三〇頁一一行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 右認定に対し、控訴人は、「加藤係官において右のような説明はしていない。青色申告の承認の取消しについては、修正申告の慫慂をした時にも言われておらず、本件青色承認取消処分において初めて控訴人はそれを知ったのである。」と主張する(同理由書一〇頁)。しかし、前掲証拠によれば、加藤係官において青色申告の承認の取消しになることを説明したものと認めることができる。」

15  同三一頁九行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 右認定に対し、控訴人は、「右電話連絡は真実は行われていない。」と主張する。しかし、前掲証拠によれば、右電話連絡が行われたものと認めることができる。」

16  同三五頁一行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 この点につき、控訴人は、「吉田局員が係官に請願書を見せた日は一一月一九日の調査当日であり、その請願書は乙第六号証の請願書ではなく、別の物であって、一二月二〇日の調査は真実は行われていない。」と主張する(同理由書一一頁)。しかし、吉田局員が税務署に請願に行ったことが一一月二六日の請願以外に同月一九日以前にもあり、そのときの請願書(乙六とは別物)を同月一九日の調査当日係官に見せたことを認めるに足りる的確な証拠はない。」

17  同三八頁三行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 この点につき、控訴人は、「所得税法一五〇条一項一号は帳簿書類の備付け、記録又は保存が法の規定に従って行われていないことを青色申告承認取消の要件として規定しているところ、「帳簿書類の備付け、記録又は保存」という行為概念と「税務職員に対する提示」という行為概念とは明らかに異なる概念であり、前者が後者を包含するものでないことは明らかである。青色申告の承認によって納税者は、各種の利益、特典を付与されているのであるから、これを取り消すことによって納税者に対する不利益処分を行う場合は、租税法律主義に基づいて、その要件を厳密に解することが求められるのであり、納税者に対して不利益な拡張解釈は禁じられていると解すべきである。提示拒否をもって備付け、記録、保存がないことに該当すると法的に評価するというのであれば、その主体は、税務職員ではなく、裁判所であると当然に考えられるのであり、そうであるとするなら、法的に評価する主体である裁判所は、「提示拒否」という事実をもって備付け、記録、保存がないと短絡的に評価するだけではなく、訴訟段階で納税者によって提出された帳簿等を検査することによって帳簿の備付け、記録、保存がなされていたと判断することも可能であり、後者の判断が禁止され、排除されるべきであるとの解釈は、条文上出てこないことになる。仮に納税者において提示拒否があったとしても、納税者は税務署長において青色申告承認取消の処分を受けるものの、不服申立て及び訴訟段階で帳簿等の備付け、記録、保存の事実を客観的に証明すれば青色申告承認取消の処分を免れることになると解すべきである。いずれにしても、提示拒否をもって備付け、記録、保存がないことに該当すると法的に評価する主体が裁判所であるとすると、青色申告承認取消の要件事実の判断が、事後的になされることになるので、要件の明確さに欠けるものであって、租税法律主義の要請のひとつである租税要件明確性の原則に矛盾する解釈である。また、「提示拒否」を青色申告承認取消事由に該当すると判断する主体が課税庁であるとするならば、税務調査においてはさまざまな態様があり、調査も一回で終わる場合もあれば、数度に及ぶ場合もあるが、そのどの時点で青色申告承認取消の事由の存在が法的に確定し、爾後納税者において帳簿等の備付け、記録、保存を証明することができなくなるのか、要件事実自体が極めて不明確になる。法一五〇条一項一号をこのように解釈することは、もはや法解釈の枠を超えたものであるといわざるを得ない。」と主張する(同理由書一二ないし一六頁)。しかし、提示拒否をもって「帳簿書類の備付け、記録又は保存がない」ことに該当すると法的に評価する主体は、あくまで青色承認取消事由が存在すると認定して当該取消処分をする課税庁であつて、裁判所は、その課税庁のした取消処分の適否について判断するものである。そして、右取消処分の取消事由の存否は処分時を基準として判断されるから、課税庁が判断主体であるからといって、どの時点で青色申告承認取消の事由の存在が法的に確定するのか要件事実自体が極めて不明確になるとの控訴人の主張は理由がない。」

18  同四一頁四行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 この点につき、控訴人は、「そもそも守秘義務において問題になるのは納税者の取引先の情報のすべてではなく、秘匿する価値のある未公開の情報である。したがって、第三者が立ち会っている場合でも、問題にする情報が納税者の取引先の秘密に特に関係するものでなければ、その立会を認めても、守秘義務の関係では何ら問題を生じないはずである。納税者の私的利益(立会要求)との衡量からしても、それを拒否することが社会通念上相当と認められる限度というのは、納税者の取引先の情報のすべてではなく、納税者の取引先の情報のうち、秘匿する価値のあるもので、現に公開されておらず、取引先も公開を希望しないと、社会通念上認められる範囲のもののみが、守秘義務の対象として保護され、その範囲で立会を拒否することができると解すべきである。納税者の取引先の情報のすべてを保護するために、守秘義務を理由として立会を拒否することが、社会通念上妥当であるとすれば、すべての立会は拒否すべきものとなってしまうであろう。これは最高裁判例の立場からも逸脱した解釈論である。なお、青色であっても、白色であっても、税務調査の必要性との関係で納税者が調査に応じて帳簿等を提示し、閲覧検査に応ずべきことは、基本的に異なるものではなく、青色申告者が特別な受忍義務を負うものではないと解すべきであるから、青色申告の基本的枠組みを優先する解釈論は誤りである。」と主張する(同理由書一七頁ないし二〇頁)。しかし、守秘義務の対象となる情報が納税者の取引先の情報のすべてではないとしても、右の調査には係官が納税者に質問して帳簿書類の内容について確認することが含まれることは右に説示したとおりであって、そのような調査を第三者の立会いの下で実施することにより、控訴人が主張するような守秘義務の対象となる情報が当該第三者に漏れるおそれがあることは否定できないのであるから、原則として、税務職員が調査に際して第三者の立会いを断ることには、裁量判断上合理性があるということができる。本件の場合、係官が座ったテーブル又は炬燵の隣に第三者が座っていたのであって、そのような情況においては調査ができないとして係官が第三者の立会を断ったのは、税務職員の合理的裁量の範囲内のことというべきである。けだし、青色申告者は、所定の帳簿の備付け義務を有しているから、その義務を遵守しているか否かの調査において、青色申告者が白色申告者と異なった扱いを受けることは当然のことである。」

19  同四四頁九行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 この点につき、控訴人は、「税務調査がそもそも任意調査であるという前提に立てば、納税者である国民は、私的利益を追求する観点から自由に行動する権利を有しているのであつて、立会を要求することに、合理的根拠をことさら必要とするものではない。むしろ、係官において立会人を排除しなければ、調査ができないという主張が合理的であり、立会人を断ることが社会通念上妥当であることを説得し、納税者の理解を得る義務があると解すべきである。本件の場合、裁判所が判断すべき対象は、納税者である控訴人らが立会を要求したことに特別の合理的根拠があるかどうかではなく、係官において立会人を認めない立場がどれだけ社会通念上合理的であったか、また、その合理性について納税者の理解を得るためにどれだけ説得努力を尽くしたかが、問題とされるべきである。本件の場合、貸倒金の処理の仕方についても、在庫の点についても、立会人がいることによって係官の守秘義務の履行に問題が生じる状態ではなかったのであり、帳簿等が現に係官の目の前に提示されており、これを確認しようとすれば容易にできる状態にあったのであるから、係官において立会人なしで調査に応じるよう説得する必要もなかったし、係官が立会人を退席させるように要求する客観的必要性、合理性が不十分であり、納税者側からすれば、係官が立会人退席に固執することについて納得のできる説明になっていなかったというべきである。よって、本件の場合、調査不能に終わった原因は、納税者にあるのではなく、係官の側にあると判断すべきであった。」と主張する(同理由書二〇頁ないし二四頁)。しかし、前記のとおり、原則として、税務職員が調査に際して第三者の立会いを断ることには、裁量判断上合理性があるということができるのであり、帳簿等が現に係官の目の前に提示されていても、その内容について質問し内容を確認する等の過程において、守秘義務の対象となる納税者の取引先の情報が第三者の立会人に漏れるおそれがあることは否定できないから、係官が立会人を退席させるように要求する客観的必要性、合理性が不十分であったとの控訴人主張は理由がない。」

20  同四五頁九行目から四八頁八行目までを削除する。

21  同四八頁八行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「四 本件青色承認取消処分の恣意性

そもそも、昭和六三年分及び平成元年分の青色承認について取消事由が存するにもかかわらずその取消処分をしなかった場合、その当否が問題とされるのはともかく、そのことによって、平成二年分以降について青色承認取消事由が存在するにもかかわらずその取消処分をすることが許されないと解すべき根拠は存しないというべきである。控訴人は、昭和六三年分及び平成元年分について青色承認取消処分をしなかったことが被控訴人の恣意性の現れであるとして、平成二年分以降について青色承認取消事由が存在する場合であっても恣意的にその取消処分をすることは許されないと主張するものである。しかし、本件各年分の調査をしたにもかかわらず本件青色承認取消処分が平成二年分以降のものに限定されているからといって、そのことから、昭和六三年分及び平成元年分の青色承認を取り消さなかった唯一の理由が、右二年分について青色承認取消処分をすれば税金を還付しなければならなくなるからであって、右二年分について青色申告を承認し、平成二年分以降のみ青色申告承認を取り消したのは、被控訴人において恣意的に控訴人に不利益をもたらすために行ったものであると認めることはできず、証人加藤の証言(調書<1>三五頁から三八頁、調書<2>二六頁以下)によってもこれを認めるには足りず、他に右処分が恣意的にされたことを認めるに足りる的確な証拠はない。」

22  同四八頁九行目の「四」を「五」と改める。

23  同四九頁四行目から末行までを次のとおり改める。

「 また、控訴人は、本件更正等処分も恣意的処分として違法であると主張するが、四において本件青色承認取消処分の恣意性について述べたと同様の理由により、右主張は採用することができない。」

第六結論

よって、控訴人の請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原健三郎 裁判官 岩田好二 裁判官 橋本昌純)

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